ここまでの記事では、働く動物病院の選び方についてお話ししてきました。
本記事では、少し立ち戻って、転職のタイミングについて考えていきたいと思います。
動物病院に勤務する獣医師には、
- 「このままでいいのかな?」
- 「給料が安すぎる…」
- 「いつまでこんな働き方を続ければいいんだろう?」
という疑問を持っている方はいませんでしょうか?
動物病院勤務の小動物臨床獣医師は、
「3K(きつい、汚い、危険)」
「5K(+臭い、暗い・悲しい)」
などと形容されるように、しんどいイメージがあります。
若手のうちは、できることも少ないため、こういう疑問がより出やすいと思います。
働き続けていると、できることが増えてやりがいが上回ってくることが多いですが、
働き始めの頃は、常にこういった疑問と戦うことになると思います。
ただ、とりあえず転職しよう!という考えは少し危険です。
職場が変わって全てが解決されるわけではありません。職種を変えても同様です。
この記事を読めば、「後悔しない転職タイミングの判断」ができるようになります。
これらに対する答えを提示させていただきます。
この記事を書いている私ですが、
少しでも本記事を参考にしていただければと思います。
3ステップで考える! 若手獣医師の転職のタイミング
大前提ですが、本記事はみなさんに転職をお勧めするものではありません。
まずは現状を整理して、転職が本当に必要なものなのかどうかを考えましょう。
もし転職が必要と判断される場合には、これまでの記事を参考にして、
ひとまず見学に行く動物病院を見つけていきましょう。
ステップ1 本当にその転職、必要? 10項目自己診断チェックリスト
まずは、現状を把握しましょう。
以下の項目に「はい」「いいえ」で答えてみて、
整理して考えてみましょう。
今の不満は「環境」の問題? | 1 | 現在の給与や労働時間が、業界の平均と比較して明らかに低い・長い | はい | いいえ | 「はい」が3つ以上なら、環境に問題あり →転職検討 |
2 | 学びたい専門分野を学ぶ環境・時間がない | はい | いいえ | ||
3 | 院長や先輩からのパワハラなど、精神的に追い詰められていると感じる | はい | いいえ | ||
4 | 職場に相談できる人がいない | はい | いいえ | ||
今の不満は「あなた自身」の問題? | 5 | 新しい知識や技術を学ぶことを、面倒だと感じることがある | はい | いいえ | 「はい」が3つ以上なら、自分に問題あり →転職ストップ |
6 | スタッフとのコミュニケーションを、苦手だと感じる | はい | いいえ | ||
7 | 「とりあえず」転職して、何か新しいことが見つかればいいと考えている | はい | いいえ | ||
8 | 自分の意見を、相手に伝わるように整理して話すのが苦手だ | はい | いいえ | ||
キャリアの目標は明確? | 9 | 5年後、10年後に「どんな獣医師になりたいか」が明確に描けている | はい | いいえ | 2つとも「はい」 →迷わず転職 |
10 | あなたが目指すキャリアを、今の動物病院では達成できないと確信している | はい | いいえ |
今の不満は「環境」の問題?
ここではあなたの職場環境について確認します。
ここで「はい」と答えた数が3つ以上ある方は、
職場環境に問題ありと判断し、
転職することを前向きに考えましょう。
1. 現在の給与や労働時間が、業界の平均と比較して明らかに低い・長い
今の職場の労働環境の問題。
皆さん個人の感じ方ではなく、業界平均と比較して客観的な情報を得ましょう。
ちなみに、令和5年の賃金基本構造統計調査によると、
となっています。1つの参考にしてみてください。
また、「拘束時間」という考えも重要です。
「朝8時に来て夜8時に帰るけど、労働時間は8時間」
みたいな話はよく聞きます。
法律的には、
6〜8時間の労働:45分以上の休憩
8時間以上の労働:60分以上の休憩
が必要とされています。
先ほどの「朝8時に来て夜8時に帰るけど、労働時間は8時間」の例でも、
この法律は守っていますよね。
しかし、休憩時間3時間というのは、なかなかの負担だと思います。
また、獣医師の場合、休憩時間中にも電話・急患・処置依頼などのさまざまな連絡があるため、
病院を離れるわけにもいかず、休憩を取っているという感覚ではないですよね…
中にはこれだけの拘束時間にしておきながら、残業代も出してくれない病院もあります。由々しき事態ですよね。これぞ「やりがい搾取」です。
そのような職場環境は、昭和世代は当たり前でしたが、今は全く当たり前ではありません。
拘束時間という観点でも、今の職場環境を見直してみましょう。
2. 学びたい専門分野を学ぶ環境・時間がない
そんな悩みを抱えている人は多いと思います。
今一度、学べる環境であるかどうかを見直してみましょう。
3. 院長や先輩からのパワハラなど、精神的に追い詰められていると感じる
獣医師は、どちらかというと職人に近い気質を持ち合わせています。
特に今の50代以上の院長クラスになると、過去の苦労話や成り上がり話を無限にお持ちの先生も多いですよね。
自慢話だけに留まってもらえたら良いのですが、
など、極端な行動をしてくる院長・先輩には注意が必要です。
パワハラと指導の線引きについては、それだけで1記事かけてしまうほどの深い内容ですが、
基本的にはされた方がパワハラと感じた時点でアウトです。
くれぐれも無理せず、環境を今一度見直しましょう。
4. 職場に相談できる人がいない
これも非常に多い悩みだと思います。
特に一次動物病院では、スタッフの数も少なく、年齢層もまちまちなので、
近い年齢のスタッフがたまたまいてくれればラッキーですが、
など、多くの悩みの種が潜んでいます。
もちろん、職場を変えることが最良の選択となるかどうかはわかりません。
例えば転職先にいた相談できるスタッフが、入社後すぐに辞めてしまう
なんてことも考えられます。
しかし、転職を考えるきっかけになるのは間違いないでしょう。一度冷静に今の環境を分析してみましょう。
今の不満は「あなた自身」の問題?
ここではあなた自身の性格や職務態度について確認します。
ここで「はい」と答えた数が3つ以上ある方は、
職場環境ではなく自身に問題ありと判断し、
自身の職務態度を見直すことを優先して考えましょう。
5. 新しい知識や技術を学ぶことを、面倒だと感じることがある
「はい」と答えた方は、おそらく転職には不向きです。
(というか、もしかすると臨床獣医師に不向きかもしれません…)
転職すると、まず新しい動物病院のスタッフ・ルールを覚えるところから始まり、
薬・器具・雑品の位置も覚えなければなりません。
そういったことだけでなく、得意とする専門分野についても、
今までの知識や技術が通用しない場合もあります。
動物病院によって、細かいところでやり方が違うことは多々あります。
転職をしても、また新しく覚えることが増えてしまうだけですので、
今の職場でできることを探す機会にしてみましょう。
または、職場を変える転職ではなく、
職種を変える転職にシフトして考えてもいいかもしれません。
6. スタッフとのコミュニケーションを、苦手だと感じる
「はい」と答えた方は、一旦立ち止まりましょう。
転職の目的によっては、コミュニケーションが苦手であっても、
新たな職場環境に踏み出さなければならない場合もあります。
しかし、職場を変えることが解決にならない可能性があります。
職場を変えることではなく、自分を変える努力をしていく方が先決だと考えましょう。
7. 「とりあえず」転職して、何か新しいことが見つかればいいと考えている
「はい」と答えるのがいかにも悪い感じの質問にしてみました笑
このマインドは、結構多いですが危険です。
新卒の獣医師であれば、
「働いてみてからやりたいことを探す」
「働いてみてから興味のある分野を選ぶ」
などの考え方は全く問題ないと思います。
しかし、すでに働き始めている場合には、上手くいかない場合もありますのでご注意を。
1つ目の動物病院で見つからなかった場合、2つ目・3つ目でも見つからない可能性ありです。
転職する理由が明確でない場合には、一旦立ち止まって、今の職場でできることを考えましょう。
8. 自分の意見を、相手に伝わるように整理して話すのが苦手だ
「はい」と答えた場合、転職することで何かが解決することはないと思います。
もちろん、上司側に問題があり、意見を聞き入れてくれないこともあると思います。
しかし、自分が意見を話すことに苦手意識を持っているなら、
それを解消するための努力をした方が良いと思います。
※この辺りの質問は、
「職場」「自分」のどちらに問題があるのかを明確に線引きするのが難しいものです。
そのため、明確な答え・正解はありませんが、自分を見直す機会として使ってもらえたら幸いです。
キャリアの目標は明確?
ここではあなた自身のキャリアプランについて確認します。
ここで2つとも「はい」の方は、
迷わず転職でいいと思います。
9. 5年後、10年後に「どんな獣医師になりたいか」が明確に描けている
獣医師としての将来像が描けている場合は、転職に向かいましょう。
色々な将来像があるかと思います。
中には、
などと考えている獣医師の先生もいらっしゃるかもしれません。
個人的には、めちゃくちゃ応援したいです。
ただ、最終的に楽をするためには、数年の努力が必要な場合もあります。
給料が本当に最低限で良いなら別ですが、努力して強みを持っておくと、
働き方・給料どちらに関しても交渉力を持つことができます。参考にしてください。
10. あなたが目指すキャリアを、今の動物病院では達成できないと確信している
獣医師としての将来像が描けていて、
かつ今の動物病院の環境では実現が難しい場合には、
早めに転職しましょう。
これだけ確信がある場合には、もう引き止めてもしょうがない気もしますので、
ご自身の直感に従って、転職に向かって動き出してください!
ステップ2 今の職場でやり残したことはないか確認してみよう
ステップ1で、転職する方向に決まった場合でも、
必ず今の職場での習慣を見直してみましょう。
1週間、1ヶ月の自身の働き方を振り返り、
ということを自問してみましょう。
職場の 同僚・先輩に相談するのも、アリかもしれません。
ただし、相談する相手は選ばないと、ただ引き止められるだけの時間になりますのでご注意を。
理想は、
そんな先輩に相談することです。
客観的な意見をもらうことで、自身の考えに変化があるかもしれません。
また、他の職場の友人・知り合いに相談することも考えましょう。
同様に客観的な意見をもらえます。
外の環境から見ると、実は今の職場はすごく恵まれていたなんてことは多々あります。
追い込まれて転職した結果、さらに悲惨な状況に追い込まれることも考えられます。
今の職場の良い点についての意見をもらう目的で、相談してみましょう。
ステップ3 転職後の働き方を想像しよう
最後のステップは、転職後の働き方の想像・イメージです。
あんまり期待しすぎるのは良くありませんが、
今の職場と比べて良い点がなければ、転職する意味がありません。
「具体的にどの点が良くなって、どういう働き方をして、何年後にどうなる」
というイメージを持ちましょう。
例えば、整形外科を勉強したい獣医師Aさんがいます。
Aさんは、今の職場では3年勤めましたが、手術はほとんど外回りばかりで、メスもほとんど握らせてもらえません。
整形外科の手術はたくさんあるのに、時間だけが過ぎていることに焦りを感じ、より早くに手術を経験できる動物病院を見つけ、転職を決めました。
Aさんの転職先での働き方のイメージは、
こんな感じでしょうか?
もちろん、医療的な成長だけが、転職のメリットではありません。
獣医師Bさんは、職場の人間関係に悩んでいました。
Bさんは、今の職場で3年勤めましたが、先輩看護師の権限が強く、
自分がやりたい処置ができなかったり、症例よりも先輩看護師のことを考えて診察をする日々に嫌気がさし、転職を決めました。
Bさんの転職先での働き方のイメージは、
こんな感じです。
いろんなイメージがあっていいと思いますが、
転職する目的の最終確認として、働き方を想像してみましょう。
まとめ
転職するのって、結構パワーが必要です。
「余程のこと」がない限りは、今の動物病院に居続けた方が楽な場合が多いと思います。
これは私の感覚かもしれませんが、今の時代、パワハラ・セクハラ・モラハラなどなどのハラスメントをすることが本当に難しくなっていると思います。
そのため、ハラスメントが酷過ぎて辞めたい!
という意見を聞くことは減ってきています。
というより、
ハラスメントでスタッフが辞める
↓
人が入ってこない
↓
焦ってハラスメント対策をする
↓
どんどんハラスメント動物病院が減る
といった流れでしょうか。
そのため、「余程のこと」はどんどん減ってきていると思います。
そんな時代にあっても、転職を考えようとしている皆さんは、その時点で向上心の塊だと思います。
もちろん、転職が正解になることばかりではないですが、
100点満点の選択肢は存在しませんので、ご自身が納得するまで考えてください。
この記事を通して、キャリアアップの選択肢の1つとして、転職を考えてみてもらえたら幸いです。
それでは、またお会いしましょう!
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